無職の楽しみ

朝8時26分、目が覚めた。アラームによって起こされたのではない、体が求める睡眠時間を達成した為、自然と目が覚めたのだ。会社に行っていた頃は6時半に起きていた。当然ながらアラームをかけていた。その時と比較するとかなり遅い時間である。結構寝たはずなのに視界がボヤけて寝ぼけた感じがする、メガネがない、メガネをかけて窓から外を眺めると見慣れた隣家と灰色の曇り空が見えた。ここ最近ずっと天気が悪い、確か今日も雨が時々降るらしい。

天気が悪い日は一日中家に閉じこもっていることが多いのだが、今日はお風呂へ行こうと決めていた。実は前日に筋力トレーニングをしていて、体のあちこちが痛む、見事に筋肉痛になっている。心地良い痛みだが、風呂に入って体を温め血液の循環を良くしてあげると筋肉痛が収まり回復が早くなる。

かばんにタオルと財布を詰め込んで玄関の扉を開けた、曇っているが窓から見た空よりも明るい、そして肌寒い、もう春だっていうのに。でも寒いのも結構良いものでもある。芯まで冷え切った体で温泉に入った時の快感は格別だし、露天風呂に浸かりながら体はポカポカ、頭が冷え冷えというのもとても気持ちが良いのだ(これは温泉好きなら分かってもらえるはずだ)

少し時間がかかるけど一応徒歩圏内に温泉施設がある、温泉と言っても天然ではないが、まあ贅沢は言ってられない、徒歩圏内にあるだけでもありがたいものだ。経路の途中に駅があるのだが、丁度通勤ラッシュの時間帯みたいでたくさんのスーツに身を包んだサラリーマンが改札口から駅の構内に吸い込まれていく。「みなさんお仕事大変だなぁ」とどこか他人事みたいに呟いてさっさとその場を後にする。人混みは嫌いだ。

やっと着いた、駐車場の埋まり具合を見て混雑しているかどうかを予想する、結構隙間があるので空いているだろうという結論に達した。そりゃあ今は平日の朝9時だ、普通の人は通勤、早い人だともう仕事している。店内に入り、販売機で入場券を購入する。このお金の支払い方もお店によって色々種類があって、券売機で購入するタイプや番台に直接支払うタイプ、靴箱の鍵を渡す or 渡さないなど多用である。

さてやっとお風呂だ、まずはかけ湯で軽く全身を洗い流す、ひどく汚れているわけではないのでまずはこれで充分。室内にある少し大きめのお風呂に入る、お湯の色は透明だ。段差に座って腰辺りまで浸かるようにする、半身浴みたいな感じだ。ぼーっとしているとお湯によって血管が拡張されていく感覚が分かる、少し心拍数が上がり、汗ばんでくる、時間にして10分ぐらいだけど、それぐらいになったら一度出て、シャワーで体を洗う、こうすることで体の汚れが落ちやすくなる。

次は露天風呂へ行こう、外への扉を開けると冷気が体にあたる、まだ体の芯から温まっていないのですごく寒い。露天風呂には誰も居なくて貸切状態になっていた、誰にも気兼ねせずに足が伸ばせる。この手の温泉施設は何故か露天風呂にTVが設置されているのだが、ぼくはあまり好きではない。風呂に入っているときは風景を眺めるか、目をつぶって思考にふけるのが良いのだ。

体も充分に温まってきたし、次はサウナで汗を流そう、まずは水分補給をする、そして手持ちタオルに冷水をかけておく。サウナには当たり外れがある、当たりのサウナは温度が高くすぐ汗が出る、はずれのサウナは中途半端な温度で全然汗かいた気がしない。ぼくはサウナに長時間いるのはあまり好きではないのですぐに汗をかける温度が高い方が好きなのだ。

サウナで充分に温まったら、外に出てすぐ横にある水風呂に慎重に足から入る、足を入れた時の温度差によるものだろうか、痺れみたいな感覚は最初のうちは変な感じがしたけれど今は慣れた。肩まで水風呂に浸かって10秒数える、ぼくはあまり体に脂肪がないのでこれぐらいで充分だ。水から上がると全身が痺れたような気怠いような、しかし心拍数だけは異様に高い気持ちが良い状態になる。そうすると外に出て横になれるスペースに寝転がり荒くなった呼吸を整える。これをもう一度繰り返し、最後にまた風呂に入って体を温めてから出る。乾いた喉には風呂あがりのコーヒー牛乳が染み渡って最高の気分になれる。